【ストレスとメンタルヘルス】
心の基礎的概念
一般的に自分の状態や状況を自覚できる覚醒時の心理状態を「意識」といい、その状態は過去に経験した知覚・思考・感情・認識・自覚などによって特徴づけられるとされる。また、意識がなく、知覚・思考・情動などの覚醒的な心的経験を欠いている状態を「無意識」という。
〉〉〉意識と無意識
精神分析の分野では心の中の「意識がない」領域を無意識といい、心が自覚できる意識だけで成り立っているのではなく、その奥に無意識という世界が広がっているという概念にもとづいている。この無意識を発見・研究し、精神分析学を生み出した人物がフロイト(Sigmund Freud : 1856~1939年、精神分析の父といわれるオーストリアの精神医学者)である。
フロイトはさまざまな試行錯誤から、人間には自分ではまったく意識されない心の領域があり、そこに抑圧されたものが神経症の原因であるとして、精神分析という治療法を確立した。自由連想法という手法を考案し、自分でも意識できない無意識というものを表面化(意識化)させることで、神経症の治療に応用させている。
〉〉〉自我と自己
◆自我(=ego、エゴ)
他者や外界から区別して意識される自分自身を表す概念のこと。「私」としてのパーソナリティの中心を成し、行動や意識の主体となる。自我の働きは、その人の性格や精神構造に影響を与え、時間の経過や様々な変化を超越して自己同一性を形成する。精神分析の分野で自我は、本能的欲求を外界の現実や良心に適応させる働きであると考えている。
◆自己(=self、セルフ)
第三者からの客観的な存在として意識される「自分」、「その人自身」のこと。スイスの心理学者のユングは、自己を意識と無意識を両方含む全体性の中心であり、それらを統合する役割を果たす司令塔が「自我」であるとしている。
※日常的に「エゴ」を「エゴイスト(利己主義者)」の意で使うことが多いようであるが、そのイメージとは異なる。
②心理作用と身体生理作用のつながり
〉〉〉防衛機制
悩みやトラブルといった問題に直面すると、私たちはその状況を受け入れ、解決しようと努める。問題が解決できた場合は成長につながるが、解決できなかった場合や受け入れられなかったとしても、残念ながらその問題からは逃れることができない。このような場合、私たちは無意識に自分の心を操作して自己防衛を行う。精神分析において、自我を守るためのこの心の働きを「防衛機制」という。なかでも無意識の領域で自動的に起こり、苦痛となる願望や感情、記憶などを意識から締め出しながらも、意識しないままそれを保持している状態を「抑圧」といい、精神分析において想定される自我の防衛機制のうちもっとも基本的なものである。
◆ストレス
何らかの刺激が身体に加わった結果、身体が歪みや変調を示す現象のこと。セリエ(Hans Selye、1907~1982年、カナダの生理学者)が1930年に提唱した学説により、ストレッサーによる心理的、身体的な外的刺激に対し、自己防衛によって起こる内部環境の変化をストレス反応という。ストレス反応には個人差があり、疾患を引き起こすこともあるが、自己成長を促す糧となる場合もある。
◆ストレッサー
日常生活の中で受けている刺激。ストレス反応を引き起こす、何らかの外部環境の刺激をストレッサーという。このストレッサーには、心理的要因、身体的要因、物理的要因、化学的要因、生物学的要因、社会的要因がある。
・心理的要因は不安、緊張、怒りなど自己の精神的な状態によるものである。他の要因がきっかけとなり心理的要因となる場合もある。また、心理的要因が強いと他のストレッサーに対してもストレスを感じやすくなる。
・身体的要因は、疲労、不眠、健康障害など身体的な状態によるものである。身体的要因は心理的要因同様に他の要因をきっかけに生じることが多く、また身体的要因があることで、他のストレッサーに対してもストレスを感じやすくなる。
・物理的要因は、光、音、湿度、温度、放射線、風やそれらの著しい変化を引き起こす自然現象、自然環境によるものである。
・科学的要因は、タバコ、食品添加物、栄養の過不足など体内に取り込まれる化学物質によるものである。
・生物学的要因は、ウイルス、カビ、ダニ、花粉などの非自己によるものである。
・社会的要因は、場などによる対人関係、仕事上の問題などや時間によるライフステージの変化により、社会との関わりや役割が変わることで感じる。
人のストレスを考え得るうえで社会的ストレッサーは非常に重要であると考えられている。このストレッサーは悪いこと嫌なことだけをさすのではなく、結婚や就職、昇進などの一般には祝い事とされる事柄も心理的要因、身体的要因となり、ストレスにつながる。
◎セリエのストレス学説(全身適応症候群)
・警告反応期(6~48時間後)
警告反応とは、生体が突然ストレッサーにさらされたときの反応である。ストレッサーを感知し警告反応がおこり、ストレッサーに抵抗していくための準備体勢が整えられる段階である。
ストレッサーが与えられた直後に一時的に低血糖、低血圧、低体温などにより身体の抵抗力が低下するショック期と、それに対する防衛反応で回復しようと副腎髄質からアドレナリン、視床下部から下垂体前葉を介し、副腎皮質刺激ホルモン(ATCH)を分泌し、副腎皮質から糖質コルチコイド(コルチゾール、コーチゾン)の分泌を促進させ、炎症を抑え、胃液の分泌を促進させ、ストレッサーと闘うための体の準備をさせる。
これにより抵抗力が高まる抗ショック期(反ショック期)からなる。
①ショック期…体温、血圧、血糖値は下がり、筋肉の緊張や神経活動は抑制。
②抗ショック期…体温、血圧、血糖値を上げ、神経活動も活発化し、筋肉は緊張し、神経活動も活発になり、血流も増加することで、防御体制をとる。
③抵抗期(48時間以降)…ストレッサーに対する抵抗力が正常時より増加、維持されて、ストレッサーに対してさまざまな反応がみられる段階。適応期ともいう。身体の歪み(ストレス)は徐々に修正され、もとの適切な状態に戻っていく。
④消耗期(1~3ヶ月以上)疲労期ともいい、ストレッサーが長く続きすぎたり強すぎたりして、抵抗する力や適応に必要な心身の力が衰え、対処できなくなってくる。この消耗期の状態があまりに長く続くと、神経系、免疫系、内分泌系の機能が正常に働かなくなり、疾患を引き起こしやがて死に至る。
キャノンの緊急反応 ストレス反応に対し、すばやく反応するのが、内分泌系(液性調節)と神経系(神経系調節)である。キャノンは、このような身体のすばやい反応を「緊急反応」と名づけ、ストレッサーに対する 攻撃行動や逃避行動を取るための準備状態(闘争一逃走反応)ととらえ、ストレッサーに対する適応の一つの形と考えた。
◆神経系(神経系調節)
ストレスに抵抗するために交感神経の働きを活発にしていく。
↓
副腎髄質の働きが促進され、副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)が血中に分泌。
(カテコールアミンのうち、9割がアドレナリン、1割がノルアドレナリン)
カテコールアミンの作用で、ストレスに抵抗するにふわさしい身体の状態になっていく。
◆内分泌系(液性調節)
ストレッサーを感知すると視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが放出。
このホルモンによって、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンの分泌が促進。副腎皮質からは、ストレスホルモンと呼ばれる糖質コルチコイドが分泌。これによってストレスに対する抵抗力を維持し生体を防衛していく。
◆ストレスとビタミン
ストレスにより生命の危険にさらされると、副腎皮質から大量の糖質コルチコイドが分泌される。
糖質コルチコイドは、ストレッサーと闘うための準備をするので、血糖値を上げたり、炎症を抑えたり、胃液の分泌を促進したりする。このように、ストレスに対処するには糖質コルチコイドは欠かせないホルモンだが、この糖質コルチコイドを合成するには、ビタミンCが必要である。また、ビタミンAは糖質コルチコイドの分泌を剌激し、神経系はビタミンB1消費量が増加するので、これらのビタミン補給も必要である。「ストレスを感じたらビタミン」といわれる所以はこれらの理由からである。
ストレスの様々な反応
精神的、肉体的なストレスが生体に加わると、大脳皮質から過剰なインパルスが視床下部に伝達され、生体にさまざまな歪みが生じる。胃粘膜防御機能の基礎である分泌、血液、運動などの恒常性がバランスを崩し、粘膜微小循環障害を起こし、出血性胃炎、神経性胃炎、胃潰瘍など胃の障害を起こしやすくなる。
しかし、ストレスを受けたすべての人が、潰瘍を起こすわけではなく、同じストレッサーを与えられても、受け取る側の反応はそれぞれ個人差がある。受け手の状況や環境、考え方、健康状態によってストレス反応が変わってくることを研究したのは、心理学者のラザルスである。
ハンス・セリエは、生物学的な反応を研究してきたが、ラザルスはストレッサーをどう認知するか、どう対処するのか、それによってストレスの反応も変わってくるということを心理学的な見方で明らかにした。
ストレスは心身に悪影響ばかりを及ぼすわけではなく、適度なストレスはそれを克服し、乗り越えようとする努力につながり、自分を高める刺激になる。ストレスの感じ方には個人差があるので、自分なりの対処の方法も見つけ、そのストレスの度合いに耐えられるかという見極めも必要となってくる。ストレスに対処できないと感じたら、無理をせず、医師や専門家の力を借りることも大切である。
まとめ
ストレッサーを感知すると、交感神経が優位になり、副腎髄質のはたらきも促進されるため、交感神経の末端から放出されるノルアドレナリンの作用と髄質から分泌されるカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の両方の作用で、体は闘ったり逃げたりするのに適した状態になる。同時に視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が放出され、このホルモンによって下垂体前葉からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が促進される。副腎皮質刺激ホルモンによって、今度は副腎皮質から分泌されるホルモンの分泌が増加するが、中でも糖質コルチコイドの分泌が最も促進される。糖質コルチコイドには血糖値を上昇させたり、炎症を抑えたり、胃液の分泌を促進したりする作用がある。ストレッサーと闘うために体の準備をさせるのである。また、このような液性調節より速く神経性調節が働く。ストレスに対抗するために交感神経の働きが強まり、体を闘ったり逃げたりするのに適した状態、すなわち、そのためには貯蔵していたエネルギー源を動員してきてどんどんATPを産生しなければならないので、酸素を取り入れて全身にまわすために、呼吸は激しくなり、心臓のはたらきも活発になる。肝臓に貯蔵してあったグリコーゲンも分解してグルコースにするので血糖値が上昇する。骨格筋には十分血液を送らなければならないので、骨格筋の血管は拡張し、あまり重要でない消化器系には血液を少ししかまわさなくなる。闘うときに食べている余裕はないので消化器系のはたらきは低下し、唾液も粘っこくなり嚥下しにくい状態になる。このようなはたらきを詳しく調べたのはキャノン(Walter Bradford Cannon 1871-1945)である。キャノンはこのような緊急事態に対する生体の反応を緊急反応(emergency reaction)と呼んだ。また、これら一巡の身体的変化をストレッサーに対する攻撃行動や逃避行動を取るための準備状態ととらえ(闘争一逃走反応fight or flight reaction)、ストレッサーに対する適応の一つの形と考えた。
・ストレスと疾病
ストレスと密接に関連する疾患の一つに心身症がある。心身症(心理生理学的障害)とは、心理社会的要因がその発症や経過に関係しておこる身体的疾患をいい、たとえば本態性高血圧、胃・十二指腸潰瘍、過食症、自律神経失調症、筋収縮性頭痛、気管支喘息など、あらゆる器官の疾患がある。ストレッサーの経験は不快な情動反応(不安、恐怖など)とそれに伴うさまざまな身体的変化をもたらす。これら一連の反応は環境変化に適応するための防御反応だが、それが過剰になり、長期間にわたるときは心身が疲弊して種々の障害があらわれる。
ストレッサーの身体機能への負の影響はストレッサーが中枢に作用し、自律神経系、内分泌系、免疫系の機能を低下させるというものである。機能低下により、各系が正常にはたらいていれば抑制できたような身体症状があらわれてしまい、やがて疾患に至るという考え方がされている。心身症を治療するには、それぞれの身体症状への医学的治療だけでなく、ストレッサーによって引きおこされる不安や抑鬱の改善を目的とした薬物療法、過剰なストレス反応を軽減するためのリラクセーション法、ストレッサーに対する考え方や認知行動療法などが行われる。最近では、古くから伝わる自然療法をも含めた人間全体をとらえるホリスティックな医療が再び見直されてきたが、心身相関という点で、健康の維持増進には身体面心理面両方のアプローチがかかせない。私たちの生活には常にストレッサーが存在し、逆にストレッサーは人間の成長には不可欠といわれている。ストレッサーに直面したときにどのように対処するか、自分にとってストレスを解消する方法は何かを見つけることは、ストレスによる心身の不調を予防し健康を維持していくのに非常に大切なことである。
◆積極的休養と消極的休養
積極的休養とは、疲労やストレスを引き起こした活動とは異なる活動によって、疲労回復やストレス解消を図る休養法である。例えば、軽い運動やレクリエーションなどを通して、精神面で気分転換や、肉体面でも日頃使わない身体の部分を動かすことで疲労物質の蓄積を予防、解消することを指す。これに対して消極的休養とは、身体の活動を休止することで疲労の回復を待つ休養法であり、大脳を休ませる生理活動である睡眠に代表される。
◆リラクセーション
心身における緊張の弛緩のことである。「筋弛緩」の意味で、限定的に使われることもある。心と身体は密接な相互作用関係にあるため、精神面のリラックスが肉体面のリラックスを引き起こし、反対に、肉体面のリラックスが精神面のリラックスを引き起こすこともある。
ストレスに関わる疾病
・生活習慣病
・心身症
・精神疾患
メンタルヘルスの基礎知識
メンタルヘルスとは心の健康を保つことである。心の健康は周囲の環境や年齢、気質などと係り、ストレス、身体の健康とも深く影響しあっている。
◆心身相関
心と身体は密接に関わっていること。
◆メンタルヘルスの重要性
心身相関の視点からみてもメンタルヘルスを考えることは、うつ病や統合失調症などの精神疾患の予防だけでなく、頭痛、肩こり、アレルギー疾患、高血圧など身体の健康について考えることでもある。メンタルヘルスはあらゆる場所で幅広く社会全体で考えていくべき問題である。
◆企業におけるメンタルヘルスの広がり
仕事や社会生活に関わるストレスが多い今日では、職場でのメンタルヘルス対策も重要であると考えられている。
職場では2006年の厚生労働省発表の「労働者の心の健康保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)に基づき、メンタルヘルス対策が推進されている。
また、労働安全衛生法改正により、従業員50人以上の事業所に対して、ストレスチェック制度の義務化がされている。このストレスチェック制度は、「定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげる取り組み」である。
心の病気について
さまざまな心の病気
心の病気の種類や症状はさまざまである。同じ病名と診断された場合でもその原因はストレスをきっかけとしている心身症や身体の病気と関係しているものがある。心の病気は誰でも起こる可能性がある。心の不調や症状が長く続き、日常生活に支障が出る場合には早めに医療機関や専門家に相談する。
心の病気を知ることは、自分自身や、自分の身近な人のメンタルヘルスに役立つ。
◆神経症性障害
神経症性障害とは、不安障害を中心として、適応障害、パニック障害、特定の恐怖症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの不安に基づく障害のことをいう。
・主な神経症性障害の概要と症状
①不安障害、パニック障害
強い不安、恐怖、予期されないパニック発作、特定の場所に対する強い恐怖などに基づく障害である。
症状としては、前触れのない動悸、呼吸困難、脱力感、発汗、めまい、手足の震え、吐き気など。強い不安。特定の場所や状況に対する恐怖からのひきこもりなどがある。
②適応障害
ある特定の状況や出来事がストレッサーとなり、情緒面や行動面にさまざまな症状が引き起こされ、社会生活に支障をきたす疾病。
精神的症状としては、憂うつな気分、不安感が強くなり涙もろくなる、心配性、神経過敏など。
行動面の症状としては、無断欠席、無謀な運転、喧嘩、ものを壊すなどがある。
身体的症状としては、不眠、頭痛、倦怠感、食欲不振などがある。
③PTSD(心的外傷後ストレス障害)
トラウマの発生から4週間未満の場合を急性ストレス障害、4週間以上持続している場合をPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ぶ。
症状としては、フラッシュバック、不眠などの過覚醒状態。トラウマの原因からの回避行動、感情鈍麻などがある。
◆気分障害
気分障害とは、感情(気分)が落ち込んだり、興奮しすぎたりなどの不安定な状態が一定期間以上続いて、社会生活に支障をきたす疾病である。うつ病、双極性障害(躁うつ病)に分けられる。
一般に気分の低下がみられる場合にはうつ病、気分の興奮がみられる場合には躁病、そして低下と興奮が入れ替わりで見られる場合には双極性障害(躁うつ病)と呼ばれる。原因は多岐に渡るが、大きな出来事の後に起こる心因性と、遺伝や年齢によって生じる内因性などがある。
主な気分障害の概要と症状
①うつ病
脳や身体の病気、性格、体質、心理的要因、社会的要因、環境的要因などが重なって発症する精神疾患。
症状は抑うつ気分や不安、焦燥感など精神機能の低下。倦怠感や集中力低下などの意欲、行動の低下、食欲低下。不眠などの身体機能の低下。
②双極性障害(Ⅱ型)
躁状態とうつ状態が繰り返される状態。躁のときはⅠ型と比較して軽いのが特徴。うつ状態の後に一生懸命仕事が行えるほどに気分が上がり、疲れてまた気分が低下するという極端な状態を繰り返す。
うつ状態はうつ病と同様。
躁状態
明らかな気分の高揚感、眠らなくても平気で、普段よりも調子が良く仕事もはかどるなど、周囲が困らない程度の状態。
また、双極性障害には躁状態の程度が顕著な双極性Ⅰ型と躁状態の軽いⅡ型がある。双極性Ⅰ型は気分の低下と家庭や仕事に重大な支障をきたし、大きな問題行動で入院が必要なほどの激しい興奮が特徴である。
最近、Ⅱ型タイプの人が多いことがわかってきており、自殺の危険が高く、Ⅰ型とは治療の仕方、薬も違うため注意が必要である。
③コンサルテーションに必要な心理学の基礎的な概念、一般のカウンセリングの初歩で必要とされる心理用語とその知識
◆自我(=ego、エゴ)
他者や外界から区別して意識される自分自身を表す概念のこと。「私」としてのパーソナリティの中心を成し、行動や意識の主体となる。自我の働きは、その人の性格や精神構造に影響を与え、時間の経過や様々な変化を超越して自己同一性を形成する。精神分析の分野で自我は、本能的欲求を外界の現実や良心に適応させる働きであると考えている。
◆自己(=self、セルフ)
第三者からの客観的な存在として意識される「自分」、「その人自身」のこと。心理学者のユングは、自己を意識と無意識を両方含む全体性の中心であり、円周でもあると考えた。
◆トラウマ(=精神的外傷)
何らかの心理的ショックにより、長い間心の傷となって残ることをトラウマ(精神的外傷)という。フロイトが提唱した概念で、身体的な外傷が後遺症を残すのと同様に、心の傷も将来の障害を引き起こすことが示唆されている。恐怖や異常体験といった一般的に心的外傷と考えられる悲惨な出来事だけでなく、外傷となりうる小さな経験でも日常的に積み重なることで深刻なトラウマが引き起こされることがある。
◆コンプレックス(=心理的複合体)
一般的に劣等感と同義で使用されるが、心理学的には心のしこりやわだかまりのことを指す。ある感情とその感情の周りにあり、一見関わりがないような観念や記憶の集合体を成している。これはユング(Carl Gustav Jung 1875~1961年、スイスの心理学者、精神医学者)が提唱した概念であり、無意識のうちに自動的に働いて強い感情を引き起こしたり、病的行動の原因となったりすることがある。
たとえば「私は口下手だ」という苦手意識もコンプレックスの一形態である。幼いころに自分の話すことを何でも否定する両親に育てられ、その結果本人は自分の考えを人に伝えることがしだいに嫌になったとする。いつしかまったく意見を言わなくなり、そのうち「無口で大人しい人」というレッテルを貼られ、人生において次々とこのパターンが繰り返される。そして自分自身でも「私は口下手、無口で大人しい」と自分にラベルを貼るようになる。このように、ある1つの感情あるいは感情の組み合わせによって、結びつけられたさまざまな記憶の集まりがコンプレックスとなるのである。
心理学でのコンプレックスは、上記のような「劣等コンプレックス」のほかに「エディプスコンプレックス」「エレクトラコンプレンクス」「カインコンプレックス」「ファザーコンプレックス」など数多くの種類やパターンが研究されている。
◆意識
一般的な定義では、自分が今何をやっているか、どんな状況であるかを自覚できる覚醒時の心的状態のこと。その状態は、過去に経験した知覚や思考、感情、認識、自覚などによって特徴づけられる。精神分析の分野では、無意識の概念との関連から、知覚、思考、情動、願望などの心的経験に気付くことを可能にする心の働きのことをいう。
◆無意識
一般的な定義では、意識がなく、知覚、思考、情動などの覚醒的な心的経験を欠いている状態のこと。精神分析の分野では、心の中の「意識がない」領域のことをいう。つまり、心は自覚できる意識だけでできているのではなく、その奥底に無意識という広大な世界が広がっているという概念に基づくものである。これはフロイト(Sigmund Freud、1856~1939年、精神分析の父ともいわれるオーストリアの精神医学者)によって発見された概念で、無意識の領域に存在する抑圧された欲望や、意識していない願望などは、人の思考や感情に影響を及ぼし「意識がある」領域での行動を決定しているとされる。そのため、無意識を意識化することが、神経症の治療に効果があると考えられている。
◆防衛機制
自分の欲求に対して、理性や道徳、外界の制約などとの間に生じる葛藤を解決し、自我を守るための心の働きのこと。心の無意識の領域で、自動的に起こる。苦痛となる願望や感情、記憶などを意識から締め出す「抑圧」もこの一つである。