【嗅覚】
Ⅴ.嗅覚
アロマテラピーは、精油の香りが大脳辺縁系から視床下部に伝えられてストレス症状を緩和し、心身のバランスを取り戻す大きな助けとなるものである。それは、精油の成分には、様々な薬理作用があることや、精油の芳香物質が脳の神経細胞から出されるいろいろな神経伝達物質の放出にかかわっていることがあるからである。
〉〉〉香りの伝達経路
精油の香りを感じる感覚器である鼻は、呼吸器としての役割ももっている。
鼻の内部には、鼻腔という空間が広がっている。ここは、鼻中隔によって左右に分かれ、さらに、鼻甲介という上・中・下の3本の水平のひだで分かれている。鼻腔の天井、上鼻道から鼻中隔上部にわたって、鼻中隔の両側にそれぞれ約2.5cmの面積を占める嗅上皮(合計5㎝2)に、においを感じとる嗅細胞がある。嗅細胞は感覚器官であるとともに、脳自体から発生した、外界に最も近いところにある神経で200万個ほどあり、2000万本もの嗅毛をもっている。
香りを感じるには、それが揮発性の分子であることが条件になる。香りの分子は、嗅上皮をおおう粘液層に溶け込み、細胞から出ている嗅毛で受容されて嗅細胞を刺激する。その刺激が電気的信号(神経インパルス)となって嗅神経によって伝達され、嗅球、嗅索を経て大脳辺縁系に達し、視床と視床下部を経て、眼嵩前頭皮質に位置する嗅覚野に入る。どんなにおいかを判断するのは嗅覚野である。 香りは、その成分が脳に伝わるのではなく、電気的信号として情報が伝わるのである。
嗅毛は、1本1本が感じる香りが異なっているため、自分が感じることができる香りの分子がふれたときだけ電気的信号を出す。香りは40万種類以上あるといわれているが、嗅毛は2000万本もあるため余裕をもってそれに対応できる。
右嗅覚は好き嫌いを判断する右脳に、左嗅覚はなんのにおいかを認識する左脳に分かれて伝わってから、脳梁を介して反対側の脳に伝わっていく。
〉〉〉香りの作用
大脳辺縁系は、情動や摂食行動、飲水行動、性行動などをつかさどっているが、大脳新皮質を通らずに大脳辺縁系に直接伝わる香りの情報は、それらと強く結びついてさまざまな記憶や感情を強く呼びおこす。それは、脳のなかの脳といわれる視床下部に直接影響を与えて、情報はさらに下垂体へと伝達され、内分泌系にはたらきかけ、ホメオスターシスの維持に関与する。
過度なストレスは内分泌系のバランスを崩すが、心地よい香りは大脳辺縁系に直接はたらきかけ、心地よい記憶を引き出すなどして精神を安定させ、自律神経や内分泌のはたらきを整える。さらに、におい物質の免疫を高める作用(免疫賦活作用)も加わって、ストレスに負けない心身を作る。
このようにアロマテラピーは、精油の芳香物質が大脳辺縁系に直接作用するという特徴を有効に活用して行う癒しの方法なのである。
①嗅覚の仕組み
鼻腔に入ったにおい成分は、嗅上皮をおおう粘膜の粘液に付着し、嗅毛に受容されて嗅細胞に嗅覚刺激を与える。嗅覚刺激による嗅細胞の興奮は、嗅神経に電気的信号となって伝わり、大脳辺縁系の一部である嗅球、嗅索を経て大脳皮質の嗅覚野に入り、においとして認識される。
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芳香成分 |
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嗅上皮 |
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嗅毛 |
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嗅細胞 |
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電気的信号 |
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嗅神経 |
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嗅球・嗅索 |
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嗅覚野 |
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においの認識 |
②嗅覚の特殊性
視覚、聴覚、触覚は物理的な感覚と言われているが、嗅覚と味覚は化学的な感覚と言われている。
嗅覚は快・不快や記憶など、生命維持に重要な役割を持っている。また、嗅覚は食べ物が安全かどうかの判断や、生殖行動など本能活動に深く関わっている感覚で、進化の過程での視覚や聴覚など、ほかの感覚よりも早く発達した「原始的な感覚」と呼ばれている。刺激の伝達経路も、ほかの感覚からの刺激とは逆の経路をたどる。
嗅覚刺激の一次中枢は大脳辺縁系である。まず大脳辺縁系に情報が伝わり、次に大脳皮質にある嗅覚野へ情報が伝わる。そこで、“何のにおいか”ということが認識され、さらに大脳新皮質へと情報が伝わる。それに対し、視覚や聴覚などの感覚刺激は、一次中枢が大脳新皮質にある視覚野や聴覚野で、そこで、情報が受け取られた後、大脳辺縁系へ情報が伝わる。
嗅覚刺激は大脳新皮質が行う高度な判断を受ける前に、大脳辺縁系で受けた情報をもとに直接的に身体の調節を行う。
嗅覚刺激→大脳辺縁系(一次中枢)→大脳新皮質へ
視覚や聴覚刺激→大脳新皮質(一次中枢)→大脳辺縁系へ
◆嗅覚の特徴
①古い記憶や本能行動と結びつきやすい
②閾値が低く敏感である(ほかの感覚と比べた場合)。においに鈍感な場合は嗅覚閾値が高い、敏感な場合は閾値が低いと表現するが、疲れているときや高齢になると閾値は高くなる。
③疲れやすく、同じにおいをしばらくかいでいると感じなくなる。においに鈍感な場合は嗅覚閾値が高い、敏感な場合は閾値が低いと表現するが、疲れているときや高齢になると閾値は高くなる。
④嗅細胞が疲れてにおいが識別できなくなることをにおいの順応という
⑤個人差や体調によって感度が変わる
⑥女性は男性より敏感
⑦精神的ストレスにより嗅覚障害が起こることがある。また、月経中などに、嗅覚が鈍くなる特異的嗅覚喪失になることがある。
⑧加齢によっても機能が低下する。
◆嗅覚闘値
生体内である刺激に対する反応が起こる最小限の刺激量を示す「限界値」を閾値」または「しきい値」という。
嗅覚闇値の場合、最初は認識できなかったにおいの濃度が高くなってくると、においの存在を感知できる値を「検知閾値」、さらに濃度が濃くなり「どんなにおい」かがわかる値を「認知閾値」と呼ぶ場合もある。嗅覚閾値は、月経や妊娠時などホルモンと関与して、変動が見られることがある。また加齢とともに閾値は上がる。
◆嗅覚の疲労
嗅覚は、ほかの五感に比べて疲労しやすい感覚である。強いにおいを長時間かいでいると、においを感じなくなるという性質がある。
◆嗅覚の順応
嗅覚は、ほかの五感に比べて順応が早いといわれている。順応すると、そのにおいに対して感受性が弱まるが、別のにおいは識別でき、これを逆に感受性が高まると見ることもできる。
◆嗅覚障害
◇嗅覚異常
慢性・急性鼻炎やストレス、鼻中隔の奇形などが原因でにおいがわからなくなること
◇嗅覚錯倒
悪臭とされるものを悪臭と感じなくなったり、逆に芳香を悪臭と感じるなどがある。
③嗅覚と精神作用・生理作用の関係
においには、理性ではコントロールしきれない感情を呼び起こす力があると考えられているが、これは、においの成分が人の情動や記憶をつかさどる大脳辺縁系に直接作用するからである。また、においは大脳辺縁系から視床下部に直接働きかけるため、自律神経系や内分泌系、免疫系にも影響を与える。
★アロマテラピーと嗅覚
アロマテラピーは、この嗅覚のメカニズムを有効に活用して行う癒しの方法である。過度なストレスで内分泌系のバランスを崩してしまったとき、精油の心地よい香りは大脳辺縁系に直接働きかけ、精神を安定させることで自律神経系や内分泌系の働きを整えることができ、同時に免疫を高める免疫賦活作用も加わりストレスに負けない身体をつくることにも役立つとされている。
◆プルースト効果
嗅覚が記憶をよみがえらせることをという。これは、フランスの小説家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』にある、香りが記憶をよみがえらせたというエピソードから名づけられたものである。
◆ドミトリー効果
寄宿舎などで共同生活する女性たちの月経周期が同調することをいうが、これは嗅覚に深く関連している現象である。