【精油学総論】
植物から抽出した成分である精油は、植物そのものとは異なり有効成分が濃縮されている。したがって、ハーブティなどと比較すると、強力な薬理作用があると同時に、それに伴う副作用や毒性も生じる場合もあるので、取り扱いに注意しなければならない。
1.精油とは
①(公社)日本アロマ環境協会の精油の定義
精油は、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した天然の素材で、有効成分を高濃度に含有した揮発性の芳香物質です。精油は各植物によって特有の香りと機能を持ち、アロマテラピーの基本となるものである。
②植物にとっての芳香物質
◆芳香物質の役割
・生理活性物質…植物内で情報伝達物質としてホルモンのような働きをしている。
・誘引作用…昆虫や鳥などを引き寄せ、受粉したり、種子を遠くへ運んでもらう。
・忌避作用…外敵となる昆虫や鳥が嫌がるにおいを出して、摂食されることを防ぐ。
・抗菌作用…カビや有害な菌が発生するのを防ぐ。
・冷却作用…精油を人間でいう汗のように蒸発させて自分自身を冷却し、暑さから身を守る。
◆光合成
植物は太陽のエネルギーを得て、水と二酸化炭素から炭水化物を作り酸素を排出する光合成という機能をもっている。
代謝により生物が作り出す有機化合物を代謝産物という。
その中で、糖質・脂質・たんぱく質などを一次代謝産物という。
◇一次代謝産物
植物の一次代謝産物は、光合成により水と二酸化炭素、光エネルギーから作り出される。糖質、脂質、タンパク質などの生命維持に不可欠なものである。
◇二次代謝産物
直接生命維持には関係のないもの、環境変化や進化に連動して生産されるものである。私たちが精油として抽出している植物の芳香物質(精油)も二次代謝産物である。
◆分泌部位
植物の芳香物質は特殊な分泌腺(腺細胞)で合成され油胞という小さな袋(油細胞)に貯蔵される。
その分泌部位や貯蔵部位は植物によって異なる。そのため、精油製造の際、油細胞の多い場所が、植物の抽出部位ということになる。
③精油の特質
◆芳香性…香りをもつこと。
◆揮発性…空気に触れると蒸発すること。植物性油脂にはない特徴である。
◆親油性(脂溶性)…水よりも油になじむ性質。
◆引火性(可燃性)…精油は可燃性が高いので、アロマポットなどの火を使用して、精油を利用する場合には、取り扱いには注意が必要である。
◆植物性油脂との違い
精油は、植物が自ら作り出した有機化合物が数十から数百種類集まってできたものである。植物性油脂には揮発性はなく、また油脂は脂肪酸とグリセリンでできている。
④基本情報
◆一般名
◆学名
・生物につけられた世界共通の名称のこと。
・ラテン語、ギリシャ語などが用いられ、イタリック体で表記される。
・植物についての学名は、国際植物命名規約により規定。
・古代ギリシャ時代テオフラストスによって植物の属・科というように分けられていた。
・学名は、18世紀「分類学の父」とも称されるスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが体系化した。
・リンネが体系化した二名法(二命名法)に基づき、学名は属名と種小名から構成される。
属名…似た種をまとめて取り扱う分類単位で、学名の冒頭に記される。
最初の一文字のみ大文字、イタリック体で表記する。
種小名…属名の次にくるもの。属名との組み合わせにより種が特定される。
すべて小文字のイタリック体で表記され、形容詞であることが多い。
例)ローズマリー Rosmarinus officinalis
「Rosmarinus」(属名) 「officinalis」(種小名)」
officinalisとはラテン語で「薬用の~」という意味で使用される。種小名は、形容詞が使われることが多い。
他にもメリッサやラベンダーにも使用されている。
私でいえば「瓜田(名字・ファミリーネーム)綾子(名前・個人名)」~国籍(日本)と似ている。
◆科名
生物を似た属に分類する単位である。科、属という概念は、テオフラストスの著書『植物誌』から始まったといわれている。
◆種類
原料植物の外観や生育期間による分類である。
・草本類(一年草、二年草、多年草などがある)
・木本類(樹高が2mを超える高木と、2m以下の低木がある)
◆抽出部位
精油が抽出される植物の部位で、花、葉、果皮、果実、樹脂、心材、根などがある。同じ植物でも、抽出部位の違いで精油名や成分組成も異なる。
◆主要成分
精油には数多<の成分が含まれるが、そのうち含有率の高いおもな成分をいう。「特徴成分」とは一致しない場合もある。
◆特徴成分(特有成分)
精油の香りや性質を特徴づける成分のことで、必ずしも主要成分をさすわけではなく、ごく微量の成分がこれにあたる場合もある。
2.精油の伝達経路
◆精油が働きかける経路◆
・精油が人体に働きかける経路は4つ
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嗅覚から脳へ
-
皮膚から血液循環へ
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呼吸器から血液循環へ
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消化器から血液循環へ
※①の嗅覚以外の経路はすべて血液循環に入る。
・嗅覚以外の3つの経路
嗅覚以外の3つの経路は、皮膚、呼吸器、消化器から血液循環に入るルート。
どこから入るかの入口は異なるが、いずれも血流に乗って体内を循環しいろいろな組織に働きかけ、最後は肝臓で分解、腎臓でろ過されて尿中に排泄。それ以外は、汗、呼気、便の中にも排泄。
①嗅覚から脳へ
嗅覚からの刺激は、脳に働きかけることで心や身体の生理機能に影響を及ぼす。
精油成分の分子は鼻の奥にある嗅上皮と呼ばれる粘膜に付着する。この付着した精油成分の分子を、嗅細胞から出ている繊毛(嗅毛と呼ばれる)がキャッチすると嗅細胞の興奮が起こる。においの情報はここで電気的信号(インパルス)に変換されて嗅神経を通って脳の中へ入る。嗅球、嗅索を経て、情報はまず嗅覚の一次中枢である大脳辺縁系に伝わり、扁桃体(情動の中枢)や海馬(記憶の中枢)などで情報を分析し、視床下部で自律神経系、内分泌系、免疫系に指示が伝わり、心身に影響を与える。
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精油分子 |
▶ |
嗅毛 |
▶ |
嗅細胞 |
▶ |
電気的 信号 |
▶ |
嗅神経 |
▶ |
嗅球 |
▶ |
嗅索 |
▶ |
大脳辺縁系 |
▶ |
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〉〉〉嗅覚について
嗅覚は化学的感覚
外から得た情報は五感を通じて脳に伝えられ、そこで判断が行われて、さまざまな命令が下される。このうち、視覚、聴覚、触覚は物理的な感覚と言われる。高等な動物では視覚や聴覚から多くの情報を取り入れている。一方嗅覚と味覚は化学的な感覚と言われる。嗅覚は快・不快や記憶など、生命維持に重要な役割を持つ。
視覚、聴覚、触覚=物理的な感覚
嗅覚、味覚=化学的な感覚
嗅覚は原始的な感覚
嗅覚は食べ物が安全かどうかの判断や、生殖行動など本能活動に深く関わっている感覚で、進化の過程での視覚や聴覚など、ほかの感覚よりも早く発達した「原始的な感覚」と呼ばれている。刺激の伝達経路も、ほかの感覚からの刺激とは逆の経路をたどる。
嗅覚刺激の一次中枢は大脳辺縁系である。まず大脳辺縁系に情報が伝わり、次に大脳皮質にある嗅覚野へ情報が伝わる。そこで、“何のにおいか”ということが認識され、さらに大脳新皮質へと情報が伝わる。それに対し、視覚や聴覚などの感覚刺激は、一次中枢が大脳新皮質にある視覚野や聴覚野で、そこで、情報が受け取られた後、大脳辺縁系へ情報が伝わる。
嗅覚刺激は大脳新皮質が行う高度な判断を受ける前に、大脳辺縁系で受けた情報をもとに直接的に身体の調節を行う。
嗅覚刺激→大脳辺縁系(一次中枢)→大脳新皮質へ
視覚や聴覚刺激→大脳新皮質(一次中枢)→大脳辺縁系へ
嗅覚の特徴
・嗅覚は女性の方が鋭い。
・嗅覚は男女ともに加齢により低下する。
・嗅覚は個人差が大きい。
・嗅覚は月経リズムの影響を受ける。
・ずっと同じ香りにさらされていると感じなくなる←順応(嗅覚は鈍い)
・何の香りか識別するのは難しい。香りは意識的に覚えることが難しいものである。
嗅覚は少しの刺激でも感じることができる、敏感な感覚である。あまりにも強い刺激は暴力となりえる。
嗅覚は感情に密接に関連しているので、嫌なにおい、強すぎる香りは、その人の人格などとは関係なしに嫌悪感を呼び起こす場合もあるので注意する。
②皮膚から血液循環へ
精油成分→表皮→真皮(血管・リンパ管)→血液循環→体内の組織→排泄
精油成分は親油性で、分子構造が小さいためバリアである表皮を通り抜けることができる。そして、真皮にある末梢血管やリンパ管の中に入り、血液循環に乗って全身の組織に働きかけ、精油成分によっては、皮膚を保湿したり引き締めたりする。
③呼吸器から血液循環へ
精油成分→気道の粘膜→血液循環→体内の組織→排泄
→肺→肺胞→血液循環→体内の組織→排泄
香りを嗅いだ時に鼻から入る精油成分は、2つのルートから血液循環に入り、体内をめぐる。ひとつは気道の粘膜から吸収されて、もうひとつは肺の中に入り、酸素と二酸化炭素のガス交換の場である肺胞の膜からそれぞれ血液循環に入る。また、精油成分の中には気管支や肺で痰をきったり、咳を鎮める働きをするのもある。
④消化器から血液循環へ
精油成分→消化管粘膜→血液循環→体内の組織→排泄
内服した精油成分は口、喉、食道、胃、小腸の各粘膜から吸収されて血液循環に入る。血液循環を経て肝臓に入ると分解、腎臓でろ過されて尿中に排泄される。
嗅覚、皮膚、吸入からの経路と異なる点は、内服した精油はすべて、つまり大量の精油成分が吸収されること。このことが消化管粘膜を刺激したり、肝臓や腎臓に蓄積することで毒性を発現したりという危険を伴うことがあるため、(公社)日本アロマ環境協会ではすすめていない。
3.精油の製造法
①水蒸気蒸留法
・現在、最も多く使われている方法。
・植物を釜に入れ、水蒸気で加熱。そして水蒸気の熱により植物の芳香成分を蒸発させた後で冷却することにより、水蒸気に含まれる芳香成分が液体に浮く。精油はほとんどが水よりも軽く(例外あり)水に溶けないので、水と分離して精油だけを抽出することができる。
・加熱時の温度(圧力)や時間によって精油の成分割合が影響を受ける。Head space(最初の匂いたち部分で、分子量が小さく揮発性の高い物質が含まれる)を蒸留の初期に逃がしてしまう恐れがある。
・水溶性や熱によって変質しやすい芳香成分を抽出するのには不向きである。
◇芳香蒸留水
・水蒸気蒸留の際の分離した水の方の副産物として生産され、歴史的に精油よりこちらの方が珍重された。
・芳香蒸留水には、水溶性の芳香物質や微量の精油が溶け込んでいる。
・フローラルウォーターと呼ばれ、化粧水などに利用される。
例)ローズウォーター、ラベンダーウォーター
②圧搾法
・昔は柑橘系の果実の果皮にある油房をつぶしてスポンジ吸着させていたが、現在はほとんどが機械(ロ-ラー)や遠心法によって抽出される。
・低温で果皮を搾る低温圧搾(コールドプレス)は熱変性がなく、精油本来のフレッシュな香りを楽しむことができるが、変質しやすい成分(テルペン類の一部など)や不純物も含むため品質の劣化が早く、保存期間に注意が必要である。
③油脂吸着法
・伝統的な方法であるが、製造コストが高いので現在ではほとんど行われていない。
・高温に弱い精油成分をこわさずに、微妙な香りを抽出することができる方法である。
牛脂(ヘット)や豚脂(ラード)、オリーブ油に主として花の香気成分を吸着させ、これをアルコール処理して抽出する方法で、(牛脂や豚脂に香気成分が移った状態の半加工品をポマードという)そしてポマ-ドからエチルアルコール処理(エタノールを混ぜて香りを移してから、エタノールを蒸発させる)して最終的に得られた液体をアブソリュートと呼んでいた。
◇冷浸法(アンフルラージュ)
常温で抽出。ラードやヘットをガラス板に塗り、そこに原料である花びら等をのせて芳香成分を吸わせ、何度も新しい花を取り替え、芳香成分が飽和状態(これ以上吸うことができない限界状態)になった油脂(ポマードという)にエチルアルコール処理(上記参照)して精油を抽出する。
◇温浸法(マセレーション)
60℃~70℃に温めた液体状のラードやヘットに原料植物である花びら等を浸し、何度も原料植物を取り替えながら芳香成分を吸着させ、その後エチルアルコール処理(上記参照)して精油を抽出する。
④揮発性有機溶剤抽出法
油脂吸着法に代わって利用されている方法で、熱や圧力による影響を受けないので、バラやジャスミンなどの微妙な香りを抽出するのに適している方法である。花びらや樹脂等を温めた石油エーテルやヘキサン、ベンゼンなどの有機溶剤に一定時間浸して香気を溶剤に吸わせると、花ロウという天然ワックス成分が植物から出て、精油成分と共に固まる。これをコンクリートという。その後、溶剤を除去し、そのコンクリートからエチルアルコール処理をして抽出する。抽出したものはアブソリュートと呼ばれる。
※樹脂から抽出した場合は、レジノイドと呼ばれ、ベンゾインREG.が表記されていることが多い。また、液体化したベンゾインはアルコールで希釈したものである。
⑤超臨界流体抽出法
近年になって開発された新しい抽出法のひとつで、主に二酸化炭素などの液化ガスを溶剤として用います。
芳香植物と二酸化炭素を専用の容器に入れ、高圧力を加えると、気体と液体の中間である流体状態(超臨界状態)になります。この超臨界状態の流体は気体と液体の両方の性質を持つため、花などの芳香植物によく浸透・拡散して芳香成分を取り込みます。次に流体の圧力を戻すと、液化ガスは気化して芳香成分だけが残ります。これを「エキストラクト」と呼んでいます。
この方法では二酸化炭素を溶剤とすることにより低温で操作でき、芳香植物そのものに近い香りを得られますが、高価な装置が必要となるため、あまり一般的ではありません。
4.精油の化学
①化学の基礎
◆原子
物質を構成する最小の単位で、これ以上分けることができないものをさし、これだけの存在では不安定(例:C、H)である。原子核はプラスの電気を帯びている陽子と中性子からなる。
◆分子
・原子が集まってできた物質で同一の性質を示す最小単位で比較的分解しにくい。例)H2O
・原子は観念的で世の中に存在する状態は分子からである。
・分子量とは、分子の相対的な質量を表す数値である。「炭素原子=12」を基準にして算出される
◆有機化合物
・生物(人間、植物、動物)などの主な構成物質。必ず、炭素(C)と水素(H)が一定の割合で入っている分子のグループのこと。融点は300℃以下で可燃性のものが多い。骨格の分類で鎖式化合物(脂肪族化合物)と環式化合物(芳香族炭化水素など)がある。化学式で示すには分子式、構造式、示性式がある。
◆無機化合物
ミネラルなど有機物以外のもの。融点は300℃以上で不燃性のものが多い。
◆炭化水素
・炭素と水素だけで構成されている有機化合物のことである。
◆異性体
・分子式が同一でありながら、構造の一部が異なる分子や化合物のこと。
・異性体同士は、互いに異なる性質を持つ。
分子構造の違いによって、物質名の前に[cis-シス、trans-トランス]や、[o-オルト、m-メタ、P-パラ]、[α-アルファ、β-ベータ、γ-ガンマ、δ-デルタ]、[d-ディー、l-エル]などをつけて呼び、分類する。
※[]内は同グループの異性体
②精油成分の構造による分類とその特徴
〉〉〉成分の炭素骨格
◆芳香族系化合物
炭素が6個からなり、そこに3つの二重結合をもつベンゼン環などの環が最小単位。環状構造(環状骨格)をもつ不飽和有機化合物のことで、おもに芳香族炭化水素をさす。ベンゼンに代表され、ベンゼン環として知られる。この構造をもつ化合物は芳香性のあるものが多いため「芳香族」と呼ばれるが、必ずしも芳香が芳香族の特性というわけではない。
◆脂肪族系化合物
炭素が5個、水素が8個からなるイソプレン単位C5H8という分子式が最小単位。
炭化水素のうち鎖状構造(鎖状骨格)をもち、環状構造を含まない有機化合物の総称である。油脂の脂肪酸の炭素骨格が鎖状構造であることが名称の由来。環状構造をもつものを脂環式系化合物といい、テルペン系化合物の多くはこの構造をもつ。
◆テルペン系炭化水素…官能基はなし
テルペン系炭化水素は、炭素と水素だけでできている不飽和炭化水素で、官能基はついていない。もっとも単純なテルペンはモノテルペンといい、イソプレン2単位からなります。イソプレン3単位のものをセスキテルペン、4単位のものをジテルペンという。また、テルペン系化合物はどれも弱い消毒・殺菌作用をもつ。また、他の精油構成成分がもつ毒性を和らげるという効果ももっています。
■テルペン類(炭化水素類)官能基はなし
・植物が芳香化学物質を創り出す時)にちょうど積み木のように炭素5個と水素が8個からなるイソプレン(ヘミテルペン=C5H8)を合成し、それをさらに組み合せていろいろな芳香物質をつくっている。。
・成分名のつづりの最後がーenで終わるグループ
・鎖状骨格に官能基ではなく、水素(H)がトッピングされている。
①モノテルペン炭化水素類(イソプレン単位(C5H8)が2つ連結している…C10H16(炭素数10)
特徴:
・一般に非毒性、植物精油中成分では最もポピュラーなグループ
・鎖状構造や分子の構造の一部に炭素原子による環状構造持つ有機化合物
・殺菌作用、抗真菌作用、抗ウィルス作用、鎮痛、ステロイドホルモン様などから免疫、去痰、抗感染作用が有名。しかし、一部には皮膚刺激をもつものもある。
・一般的にモノテルペンは、その成分が空気中の酸素と反応して酸化され分解する。
・熱や空気による変質を最も受けやすい。
②セスキテルペン炭化水素類(イソプレン単位(C5H8)が3つ連結している…C15H24(炭素数15)
特徴:
・モノテルペンよりおおきな分子骨格
・テルペン類の一般的な作用である殺菌、消炎、抗ウィルス、抗アレルギー作用などが有名。いくつかは鎮痛、鎮痙作用の報告もあり、強壮、免疫促進作用も示唆される。
③ジテルペン炭化水素類(イソプレン単位(C5H8)が4つ連結している…C20H32(炭素数20)
特徴:
・セスキテルペンよりも炭素骨格が5つ長くなったテルペンのグループ
・従来の消毒、殺菌作用に加えて去痰、下痢、抗真菌、抗ウィルス作用などが有名。またそのいくつかはホルモン系の調整作用を発揮する。
◇イソプレンについて
・二重結合を2つもつ炭化水素のことで、分子式(C5H8)と表わされる。イソプレンからなる構造をイソプレン骨格といい、イソプレンの数によって揮発性も変化する。
・イソプレン基本単位…………C5H8
・イソプレンの数が少ないほど、揮発性が高く、酸化しやすい。したがって、モノテルペン炭化水素は酸化しやすく、ジテルペン炭化水素は酸化しにくい。
モノテルペン炭化水素類>セスキテルペン炭化水素類>ジテルペン炭化水素類
・モノテルペン炭化水素類………C10H16……2個のイソプレン(炭素数10)
・セスキテルペン炭化水素類……C15H24……3個のイソプレン(炭素数15)
・ジテルペン炭化水素類…………C20H32……4個のイソプレン(炭素数20)
③精油成分官能基による分類
◆官能基とは
・炭素骨格、鎖状骨格のトッピング。これにより香りや性質が決定する。
・炭素骨格、鎖状骨格それぞれ酸素(O)やH(水素)などの他の原子団が結合することによって、独特の性質を備えた分子になること。つまり、官能基は成分の機能を支配し、官能基がつくことによって香りは全然違う性質になる。
・テルペン系化合物や芳香族系化合物に様々な官能基がつくと、精油成分(有機化合物)はアルコール類、アルデヒド類、ケトン類などの同一の特徴を示すグループに分けられる。
・芳香族系化合物は常に官能基のトッピングがついているが、テルペン系化合物には官能基というトッピングが無いものもある。
◆成分のグループ◆
■アルコール類(官能基ーOH)
・成分名のつづりの最後にーolで終わるグループ
・鎖状骨格に官能基の一種であるーOH基(水酸基)がついたもの
※環状骨格にーOH基(水酸基)がつくとフェノール類になる。
・一般的に優れた殺菌消毒特性と抗菌・抗ウィルス特性が有名、また気分の高揚作用も
・モノテルペンがアルコール化するとモノテルペンアルコール(こっちが多い)モノテルペノール
セスキテルペンがアルコール化するとセスキテルペンアルコール(セスキテルペノール)
ジテルペンがアルコ-ル化するとジテルペンアルコール(ジテルペノール)
①モノテルペンアルコール…殺菌、抗感染、抗ウィルス作用
②セスキテルペンアルコール…殺菌、消炎、抗アレルギー、ホルモン調整
③ジテルペンアルコール…ホルモン調整
■フェノール類(芳香族アルコール類)(官能基―OH)
・成分名のつづりの最後が、-ol、-oleで終わる。
・語尾がアルコールと似ているが、成分は最も刺激性が強く、危険なものが多い。
・酸化すると変色する。
・環状骨格に官能基の一種―OH基(水酸基)がついたもの。
・不安定なため、強烈な剌激臭を持つ。
・強力な殺菌、免疫力増強、刺激作用が有名だが、反面、中枢神経系と皮膚に刺激が強いので注意が必要である。
■アルデヒド類(官能基―CHO)
・成分名のつづりの最後がーal、-aldehideで終わる。
・鎖状骨格に官能基の一種―CHO基(アルデヒド基)がついたもの。
・柑橘系のレモンのようなフルーティな香りがする。
・パワフルな抗炎症作用、抗感染、抗真菌作用が有名。免疫力アップ、精神高揚効果と同時に鎮静効果も発揮する元気・鼓舞の香り。
・反面、皮膚刺激とアレルギーを起こす(感作)こともあるので注意が必要である。
■エステル類(官能基ーCOO―R‘)
・成分名のつづりの最後がーyl、-acetateで終わる。
・酢酸=アセテート
・2個の鎖状炭素骨格にエステル結合ーCOO―したもの。
・エステルは、カルボン酸として知られる有機酸がアルコールと反応して精製される。
・エステルに水を加えると、有機酸とアルコールになるため、加水分解しないように湿気のないところで保存することが望ましい。
・エステル類は果物や植物が成熟しきった時に、アルコール類が有機酸と結合して、その生成レベルが最高になる。果物が熟したような強いフローラルフルーティな香り。
・精油の成分の中て最も安全、緩和、鎮静、消炎、抗痙攣作用が有名。皮膚にもマイルドで殺真菌性。
=酢酸リナリル:ベルガモットが熟すとリナロールが酢酸リナリルに変化する(リナリルアセテート)
Ex.ラベンダー、クラリセージ、プチグレン など
酢酸メンチル:ミントのメントールが酢酸メンチルに変化する(メンチルアセテート)。
酢酸ゲラニル:ローズが満開になるとゲラニオールが酢酸ゲラニルに変化する(ゲラニルアセテート)。
Ex.ゼラニウム、ラベンダー、マジョラムなど
サリチル酸メチル:刺激、鎮痛、消炎に優れているが、皮膚刺激が強い。
Ex.バーチ、ウィンターグリーン
■ケトン類(官能基―CO―)
・成分のつづりの最後がーonで終わる。一見例外に思えるカンファーの別名はボルネオンである。
・第二アルコールが酸化して起こるもの。
・鎖状炭素骨格にケトン基(-CO―)が結合したもの。
・成分の安定性が高く、それ自体は酸化されない。したがってカラダの中でも代謝されにくく、未変化のまま尿に排出されることもある。
・中枢神経への毒性、有害のものも多いので注意が必要である。
・成分自体の粘性は強いが、一方で体内の粘液の流動性を高める。ごく少量使うと抗真菌特性がある。
・うっ血の除去など、粘液溶解、去痰、鎮痛、脂肪分解作用などが有名。
Ex. カンファー(ボルネオン)→ローズマリー
ヌートカトン→グレープフルーツなど
■ラクトン類(官能基―COO)
・名前はバラバラで、成分名の語尾がーenであってもテルペンとは関連性はない。
・ラクトンは、ケトンやエステルに似た構造をしており、揮発性が高く、フルーティーな香りを持つ。
・分子量が大きいために蒸留では出てこないため、揮発性有機溶剤抽出法や圧搾法で抽出された精油の中に存在する。
・体外への排出が遅い(代謝されにくい)ので注意。(光毒性は2~3時間では消えない)
・粘液溶解、光毒性が有名。
Ex.フロクマリン、ベルガプテン(フロクマリンの別名)→ベルガモット
クマリン→柑橘類の圧搾油
■オキサイド類(官能基―O)
・オキサイド類は、短い鎖状骨格にーOが結合したモノ。
・成分名のつづりの最後がーol、-oxideで終わる。
・揮発性が高く、強い香りをもつ。
・一般に去痰、殺菌作用が有名であるが、皮膚刺激が強いので注意が必要である。
Ex.1,8-シネオール→ユーカリ、ティートリー、ロ-ズマリーなど。
※1,8-シネオールの別名はユーカリプトール(ユーカリの特徴成分)ビサボロール誘導体
5.精油の作用
【※精油の薬理作用資料参照】
6.精油の品質
①精油の品質変化
精油の成分や成分比率が変化すること。紫外線や酸素、温度、湿度などの影響を受けて、その成分が酸化、重合、加水分解などの化学変化を起こすこと。
◆酸化
精油の成分が酸素と結合して劣化をおこすこと。光や熱によって加速する。
◆重合
精油中の各成分分子が一部で結合し大きな分子となり、香り等に影響が現れたり、粘度が高くなること。
◆加水分解
物質と水が反応し、異なる化学構造に分解される化学反応のこと。
精油の場合エステル類に水分が混入すると加水分解が起こることがあり、カルボン酸とアルコール類に分解される。
②保管期間
AEAJの取り決めによると、精油を温度変化の少ない冷暗所に適切に保管した場合、未開封なら2年程度、開封後は1年程度をめやすにしますが、柑橘類の果皮から圧搾法で抽出した精油は品質変化しやすいため、開封後は6か月以内をめやすにするとよいとしている。
③保管場所
精油は、光や熱による劣化を防ぐため、高温多湿をさけ、直射日光の当たらない冷暗所に保管する。火の近くや、子供やペットの手の届く場所も避ける。
④保管容器
精油の揮発や酸素の流入、光や熱による品質変化を防ぐため、保管には密閉性の高い、ガラス製の遮光瓶が適している。ポリエチレンなどのプラスチック容器は溶ける場合があるので適していない。
7.安全性
精油は、しかるべき方法で使用すれば、危険なものではない。使用法に関する無知が引き起こす事故や使用方法の誤りによって、潜在的に危険性を内包する。
①精油の使用方法
◆希釈法
・希釈濃度とは、植物油の量に対し、精油が何%であるかを表わしている。
・精油は濃縮された状態のため、必ず、希釈(薄めて)して使用する。
・スキンケア・ボディケアの場合1%濃度を目安に
精油1滴…0.05mlに対して植物油5ml
【精油の濃度】
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濃 度 |
5ml |
10ml |
30ml |
50ml |
100ml |
|
1%濃度 |
1滴 |
2滴 |
6滴 |
10滴 |
20滴 |
|
0.5%濃度 |
- |
1滴 |
3滴 |
5滴 |
10滴 |
◆保管法
・温度、湿度、光、酸素、容器の質などが影響する。
◆注意
・原液を皮膚に直接つけない。
・絶対に飲用しない。
・子供の手の届かない所に保管する。
・火気には十分注意する。
◆その他
・パチュリ、サンダルウッド、フランキンセンス等は年月を経ることで、香りが良くなる精油もある。
〉〉〉ブレンド基準
◆ノート
揮発の速度や香りの持続時間、香りの系統を表すときに使われ、精油のブレンディングの指標となるものである。一般的にはトップノート、ミドルノート、ベースノートが用いられる。香料業界では香りの質としてのノート(シプレー・フローラルなど)も語られるが、アロマテラピーでは主にブレンドをよりバランスよくすることと、香りの保留性を調節する目的で考慮される。
・トップ:分子が軽い、香り立ち良いが持続性がない、心身を刺激、急性に即効性
・ミドル:中間、つなぎの橋、代謝機能の調節
・ベース:分子が重い、香り立ちが悪いが持続性がある、心身を鎮静、慢性的にじっくり。
◆香りの強さ
ブレンドの比率において考慮されることが多い。本来主観的なものであり、大抵4つ程に分けられる。
◆香りの質
フローラル、シトラス、ハーブ、エキゾチック、樹脂(バルサム、レジン)、スパイス、樹木など
◆ブレンドの理由
・安全濃度…スキン・ボディケアの場合1%濃度を目安に
・レシピ…精油の効用、揮発性、質的ノート、相性、香りの個人的好みなどに合わせ楽しむ。
ブレンドファクターによるレシピ計算法が世界標準というわけではない。
・相乗効果…バランスを取る。同じ学名同士→良い香り
◆経皮毒性
皮膚にぬった精油が皮膚から吸収されて体内をめぐり、全身に与える毒性のことである。
◆LD50値
Lethal Dose(致死量)50%の略で、動物を用いてある物質の毒性試験を行った場合、その半数が死に至る量(半数致死量)を示すものである。精油の場合は吸入以外の投与経路でその危険性を確認する。
表記は「LD50=~mg/kg」のように体重1kgあたりの投与重量で表されるので、数値が大きいほど危険性が低いといえる。
③刺激性
◆皮膚刺激
皮膚に炎症や紅斑(発赤)、発疹、浮腫(水腫)、かゆみなどを生じさせる刺激をいう。
◆粘膜刺激
粘膜(口腔、眼、鼻腔、消化器、呼吸器、排泄器、生殖器など)に直接与える刺激のことである。とくに腎臓や肝臓に与える影響は大きく危険である。
④感作
免疫機構に基づく反応、精油のある成分が抗原となり抗原抗体反応を起こす。したがって誰でも起こるというわけではない。 Ex.「皮膚感作」、「光感作」
◆皮膚感作
生体が特定の抗原に対して抗体をつくることを感作といい、皮膚にぬった精油成分が抗原となって体内に抗体がつくられ、肌に炎症などを起こすことをアレルギーで、皮膚感作という。
◆光感作…光の存在によって抗原抗体反応が生じる。
⑤光毒性
化学物質が皮膚についた状態で紫外線をあびたとき、色素沈着や炎症などが起こることである。光毒性のある精油成分は、ベルガモテン、ベルガプテン、ベルガモチンなどで、おもに柑橘系の果皮から圧搾法で抽出された精油に多く含まれる。アレルギー反応とは違い、誰でも起こりうる。
⑥パッチテスト
使用する精油などの安全性を確かめる方法。適切な濃度に希釈したトリートメントオイルなどを前腕部の内側に適量ぬり、24~48時間放置して様子を見る。肌にかゆみや炎症などの異常が見られたら、すぐに大量の水で洗い流す。
⑦応急処置
不快感や異変を感じたら、すぐに使用をやめ、肌に使用した場合は、大量の流水で洗い流す。芳香浴の場合は換気をする。心配な場合は、医師の診断を仰ぐ。
⑧注意すべき対象
◆妊婦に対する注意
・妊娠時は吐き気、背痛、むくみ、妊娠線など、アロマテラピーが役に立つ症状が多くあるが、精油の中には通経作用を持つものや、流産薬として過去に使用されていたものもある。
・現代のアロマテラピーで、精油を使用した妊娠中の事故症例の報告はなく、必ずしもすべての精油に危険性があるとはいえない。
・室内の芳香として使用する以外は、積極的にすすめない。
・薄く希釈しての室内芳香でも、妊娠時の敏感な体調を考慮して不快を感じたらやめるよう指導する。
・通常の半分の濃度
・全身のアロマテラピートリートメントを行う際には専門家に相談する。
◆子供に対する注意
・体重が少ないこと、充分な抵抗力を持っていない等を考慮する。
・3歳未満の幼児には芳香浴として使用する以外使用しない。
・3歳以上であっても子供に対しては充分注意し、成人の使用量1/10~1/2を限度とする。
8.その他の用語
◆分別蒸留(分留)
精油の刺激性の物質を意図的に除去することである。
◇脱テルペン工程
柑橘類やパイン等のテルペン類を多く含む精油は酸化、重合しやすいため、テルペン類の一部を分別蒸留によって除去し、劣化を防ぐ。
◇脱フロクマリン工程
光毒性成分であるフロクマリン類を分別蒸留によって除去し、光毒性を防ぐ。
Ex.脱クマリンの例ベルガモットFCF…光毒性によりクマリンを除去させること。
◆保香性
香りを保持する性質のことで、ベースノートの精油は揮発速度が遅く、保香性が高いといえる。
◆収油率(採油率)
定量の植物から抽出できる精油量の割合である。収油率が低いほど高価な精油といえる。
◆クエンチング効果
ある成分のマイナス作用(毒性、刺激性など)が、ほかの特定の成分によって弱められることで、同一精油内の成分同士の間でも生まれる効果である。たとえば、レモングラスの主成分シトラールの刺激性を同じくレモングラスに含まれるリモネンがやわらげる。
◆シナジー効果(相乗効果)
「synergy」ギリシャ語由来(syn=一緒、ergon=働き)
お互いの精油成分の作用を強め合い、個別の精油や成分がもっていたプラス面の作用を強めることである。
◆ピュア・ナチュラル
特定の植物から様々な抽出法にて抽出され、その後いっさいの成分調整がされていない自然状態の精油のこと。そして植物のもつ当然の特性として多くの成分変動があることを認める。植物の学名がはっきりしていて、しかるべき抽出法で製造され、その後成分的に人為的な加工を付加していない精油。
◆ネイチャー・アイデンティカル
・「自然と同一の」という意味。人工的な精油であり、アロマテラピーには用いられない。
・素材はナチュラルだが、別々の植物から各々の成分を単離し人の手によって再構成されたもの。
・成分調整のことではなく、全く別の天然成分を使用して作り上げてしまう。
Ex. バラの精油を作る
プチグレンのネロール十ゼラニウムのシトロネロール十パルマローザのゲラニオール
・香料業界の専門用語であり、香料業界では必ずしも悪い意味ではなく、一般的に行われているが、アロマテラピー業界ではピュアナチュラルとは全く違うものとして考える。
◆偽和
・表示された精油と原料植物の全く違うものや、合成香料やアルコールなどの希釈物を混入又は、すり替えたもの。成分調整も含まれる。
◆ガスクロマトグラフィー(GLC)←機械
≪ピュア・ナチュラルな精油の見分け方≫
・最新の機械を利用すれば偽物を発見できる。この機械でオイルの指紋を見ると、天然のものには生じない化学的な不均衡がわかる。しかし、現在の科学技術では、これも完全なデータとはいえない。
◆ケモタイプ(化学種)
同じ学名の植物の同じ部位から同じ方法で抽出した精油で、その有効成分の組成比率に大きな差異を生じた異種を細分化したもの。
Ex.ローズマリーのケモタイプ
Rosmarinus officinalis ct.cinrole
Rosmarinus officinalis ct.verbenone
Rosmarinus officinalis ct.camphor
◆オーガニック(有機栽培)
本来はある特定の機関(政府)が、いかに自然に近い環境にて栽培しているかを調査した上で、これを認めたものをさす。しかし、各国のオーガニックの定義がまちまちであるのが現状。
・例)一定の年数以上、土壌汚染が検出されていないこと。
化学肥料の使用の禁止(除草剤、殺虫剤など)
動物性肥料も禁止の場合もある。(動物の糞に残留する抗生物質のため)
〉〉〉理想的なアロマテラピーで使用する精油の条件
・学名が判明している
・ピュア・ナチュラル…天然十成分無調整
・産地から小売ルートまでが信頼できる…産地と保存の問題
・ラベルや取説がしっかりしている
【参考文献】
アロマテラピー検定テキスト1級・2級(社)日本アロマ環境協会
アロマテラピー用語辞典(社)日本アロマ環境協会
資格マニュアル(社)日本アロマ環境協会
アロマテラピーコンプリートブック(上)BABジャパン
アロマテラピーを学ぶためのやさしい精油化学 フレグランスジャーナル社
アロマテラピー精油の中の分子の素顔~安全に楽しむための基礎化学~じほう
カラーグラフで読む精油の機能と効用 フレグランスジャーナル社
アロマ療法大全 ガイアブックス